薬学は、人体に働きその機能の調節などを介して疾病の治癒、健康の維持をもたらす医薬品の創製、生産、適正な使用を主な目標とする総合科学である。医薬品は、物質性・生命関連性とともに社会的存在物としての性格、すなわち社会性を有している。そのため医薬品の適正な使用の確立のためには、医学、倫理学、法学、社会学、経済学などの学際的な立場からも検討する社会的な視点が欠かせない。今後は健康科学から環境にまで目を広げた医薬品をはじめとする生命と健康に関連する物質の適正使用・管理が社会的要請となると考えられる。これまでは、医薬品などのもつ社会性に研究課題として真正面から取り組む研究が不十分であったが、薬学には医薬品をはじめとする生活関連物質を人間の健康とのかかわりの中で総合的に究明し、それらを適切に社会管理することに寄与すべき役割がある。そしてその役割は、狭義の薬学領域にとどまらず学際的な協力を得る中で果たすことができる。
薬学は、医薬品をはじめとする生命と健康に関連する物質の物質性、生命関連性、社会性の3つの要素に対応して、基礎系薬学、臨床系薬学、社会系薬学と大分類することもできる。日本の薬学は歴史的に、この記載順でその対象とする領域が広がり、総合科学として発展・深化してきた。なお、分類的には社会系薬学に含める考え方もあるが、歴史的にみても薬学のなかで当初から独自の領域を築き、国民生活に密着した課題を扱ってきた衛生系薬学を別個に分類し、薬学を基礎系薬学、臨床系薬学、衛生系薬学ならびに社会系薬学の4つに大きく分類することも可能であろう。
このように薬学は、医薬品や関連する食品・化学製品・環境汚染物質などの生活関連物質が人々の生命と健康の保持に直接かかわることから、社会に対して大きな責任をもっている。
社会薬学の研究対象は、医薬品がもつ社会性、医薬品を扱い(薬剤師など)また使用する(患者など)人々についての社会的課題、そして医薬品を必要な患者に届け安全に管理する制度、そして食品・化学製品・環境汚染物質など生命や健康に関連した物質についての課題など多岐にわたっている。そしてそれらの研究を通じて、人間の生命と健康の維持に寄与し社会に貢献することを目的としている。
社会薬学は、薬学の社会適応としての学問・研究分野であり、薬学がどのように社会に応えていくかを明確にしていく役割を有しており、一層の成長・発展が求められている。